外部発信のはじめの一歩

わたしはよくIT技術系の外部発信をします。手段は記事や書籍の執筆やYouTube動画公開、登壇など、いろいろあります。その立場から、実例をもとに外部発信をするコツを紹介したいとおもいます。外部発信にもいろいろありますが、査読付き論文を書くとかいうすごいことではなく、さくっとブログ記事を書いたり、どこかの勉強会で発表するなどのことを軽いノリでやることを想定しています。

おもな対象読者は「なんらかの外部発信をしたいけど全然できない」「どうやればできるんだ」などと日々モヤモヤしているかたです。既に外部発信の実績がたくさんあるかたにとっては、人のスタイルを知るといいことがあるかもしれません。外部発信にとくに興味がないかたには役に立たないかもしれません。

三行まとめ

  • まずは「やる」と決める
  • 普段からちょっとしたことに疑問を持って、調べて、ネタを集めておく
  • 今できること+αくらいで、できる範囲でやる

きっかけ

今回紹介するのはKernel/VM探検隊北陸part6というイベントでの「device mapperによるディスクI/O障害のエミュレーション」という発表に至るまでの流れです。

www.youtube.com

speakerdeck.com

このイベントが開催されるのはXで知りました。開催場所が自分の住んでいる場所から2時間もかからず行けるところだったのと、旧知の人々と会えること*1、なんかアウトプットしたいと思ったことなどから申し込みました。

ネタは全然考えてなかったですけど、申し込んだら思いつくだろうと思って申し込みました。このあたりは性格によってかなり変わるのですが、締め切りを設定しないと何もやらない人、締め切りが近づくほど謎のパワーが出てくる人には有効な技です。追い込まれると潰れてしまうタイプの人はさすがにネタを考えてから申し込むほうがいいと思います。

とにかく大事なのは「やる」と決めることです。「いつかやろう」「そのうちやろう」で止まっていると何もできません。「やる」と決めて、それを表明する、実際に動き出すのが大事です。

ネタ出し

私の発表ネタは前々から頭の中にぼんやり浮かんでいた、以下のような思いがきっかけで浮かびました。

  • Linuxカーネルのdevice mapperという機能は、世の中でかなり使われているがいまいち地味で目立たない
  • とくにディスクI/O障害のエミュレーション機能については世の中に公式ドキュメント以外の情報があまりない
  • 難しいことをしなくても、これらについて紹介するだけでも価値を出せそう

上記のネタそのものは私がストレージ技術者であることや元Linuxカーネル開発者であるといったバックグラウンドに依存しています。したがって、みなさんの発信ネタになるものはみなさんのバックグラウンドにもとづく全然別のものになるでしょう。

ここで一番大事なのは、「世の中にどういう情報があるのか、ないのか」「こういう情報を出せば誰かが喜ぶのではないか」「自分はその情報を持っているだろうか」「持っていないが、ちょっと頑張れば得られるだろうか」などなどを日々もやっと考えておくことです。ずっと考えていると多分病んでくるので、うっすら、もやっと、でOKです。

こういうものは浮かぶときは浮かびますし、浮かばないときはまったく浮かびません。あるときいろいろなものがリンクして、「これは外に出せる!」となります。多分。なんにせよ、普段何も考えていないのに、「発表したい!するぞ!ネタひらめいた!」とは、なかなかなりません。

発信する内容を具体的に決める

さて話すネタは決めたとして、いよいよ中身を作っていきます。私の場合はネタを決めた後に、話す内容として次のようなものがが浮かびました

    1. device mapperでディスクI/O障害をエミュレーションをする方法の説明
    1. カーネルモジュールを書いてディスクI/O障害をエミュレーションする新機能を追加
    1. aをらくらく使うためのツールを作って紹介する

この中で実際に話したのはaとbの一部(新機能を追加する方法を紹介した)だけです。何かをやるぞとなったら欲が出てきて風呂敷を広げてしまいがちなのですが、今自分ができること+α程度に留めるのがよいでしょう。とくに発信にかけられる時間が少なかったり、発表までの期間が短ければなおさらです。

私の場合は発表の2週間くらい前まで何もしていなかったのと、その頃多忙で大して時間がとれなかったので、a-cをそれぞれ以下の理由で話す/話さないことにしました。

    1. 既に全部知っていることであるしタイトル通りのことなので全て話すことにした
    1. どういう風に書けばいいのかは知っているが実用的なものは書いたことがなかったし、話していると時間が足りなくなりそうだったので方法の紹介くらいに留めることにした
  • c.. 発表用スライドを書いていくうちに、これを書くと時間内におさまりそうにないことがわかった。また、今後メンテされない自作ツールを紹介しても見る人は困るだろうなと気づいた。このため、話さないことにした

大ネタは魅力的ですが、それを達成するために心身の健康を損ねたり仕事や私生活に支障を来してもしょうがないので、やれる範囲でやるとよいかと思います。

また、外部発信経験の無いかたは、最初はなるべく小さなものにすると良いでしょう。慣れていないことをしようとするときに最初からデカいことをすると勘所がわからないこともあって、うまくやるのが大変です。たとえば勉強会での発表であれば、5分くらいのLTからはじめて、だんだん時間の長いものにチャレンジすればいいかと思います。とにかく一回やり切る経験を積むのが大事かなと思います。

おわりに

ここで書いたことをきっかけに、だれかが一歩踏み出して外部発信ができることを願います。また、それをきっかけに何かの別の道が開けたりすることがあるとよいですね。情報や機会は誰かの目に留まった人のところに入ってきがちなのです。

*1:わたしはこのイベントの常連です