IT技術者はさまざまなプラットフォームを通して情報発信して知見を共有するのが好きという印象が強いです。zennやqiitaといったサービスをはじめ、さまざまな場所で貴重な情報が無償で公開されているのは驚くばかりです。
情報発信を繰り返していくうちに自分のコンテンツを形にしたい、具体的には書籍を出したいと思う人も多いようです。そこで目の前に立ちはだかる壁のひとつが出版社から商業出版するか同人誌として出版するかという選択を迫られることです。本記事ではそれぞれのpros,consについて、これまでに商業出版、同人誌出版の両方の経験がある筆者の意見を書きます。
結論から書きますと、わたしは以下のような考え方を持っています。
- なるべくお金がほしいなら、あるいは世の中に広く情報を行き渡らせたいなら商業出版
- ニッチで客層が限られるものについては同人誌
- いずれにせよ普段から誠実な情報発信をし続けるとリーチできる層が広まる
まずはいきなりお金の話をします。具体的な数値や金額は出しませんが、私がかつて商業出版した本は、同人誌として売った場合は到底達成できなかったであろう数を売り上げました。やはり全国の書店に並んだり、そうしてもらうよう働きかけてもらったりしてもらうぶん、リーチできる範囲がはるかに広いと考えておくほうがよいでしょう。
一冊あたりの著者の取り分は出版までにかかわる人の数が全く違うために当然同人誌のほうが圧倒的によいですが、トータルで考えると、よほどコンテンツがよかったり、著者の名声が高かったりする場合を除けば金銭的な見返りとしては商業出版のほうが良いのではないかと推測します。お金はどうでもいいという人も、なるべくたくさんの人に読んでもらいたいという場合は、やはり商業出版に分があるように思います。
ただし商業出版をしたいという場合には上述のように販売するまでに介在する人が多く、たくさんのコストがかかる都合上、ある程度売れるものでないと出版は困難です。おそらく数千部単位の販売が見込めなければ企画として成立しないでしょう。
どうすれば商業出版の話を始められるのかがわからなくて二の足を踏んでいる人は多いようです。第一に、自分のネタに自信があれば持ち込みという手段があります。たとえば私が本を出したことがある技術評論社では持ち込み用のページがあります。他の出版社でもあるところはあると思いますが、探しにいったことがないのでよく知らないです。どの出版社がよいか、という疑問もあるかと思いますが、技評でしか出したことがないので他は知らないです。小ネタとして、「いつからO'reillyで本を出したい…!」という野望をもつかたは多いようです。あの動物の表紙、いいですよね:-)
第二に、過去の実績をもとに出版社から声がかかることがよくあるようです。出版社は売れそうな本のネタがありすぎて困っているというようなことはなく、日々世の中の流れをウォッチして、よいネタを常に探し求めているのです。
同人誌のメリットは何といっても売れるものを作る必要がなく、自分の欲望のままにニッチなコンテンツを作れるということです。わたしのコンテンツはBOOTHと技術書典オンラインマーケットで販売していますが、いかにも商業出版が厳しそうなニッチな書籍が並んでいます。ここを重視するのであれば同人誌がぴったりだと思います。
その一方で、商業出版において出版社がやってくれていた作業をすべて自分でやる必要があります。具体的にはプロによる編集、校正は入りませんし*1、組版から印刷、在庫管理まですべて自分でやる必要があります。この手の作業を全部自分でやりたい、かつ、できる人には苦にならないと思います。その一方で、わたしのように「そのへんはめんどくさいしできるとも思わないので全て人に任せたい」という人にはつらいかと思います*2。
同人誌にするとしたら、どのようなプラットフォームで売るかという選択も必要です。たとえばKindle ダイレクトパブリッシング、BOOTH、zenn books、技術書典オンラインマーケットなどがあります。それぞれみなさんの取り分、プラットフォームそのものの知名度、物理本出版の可否などに違いがありますので好きなものを選べばいいかと思います。場合によっては複数プラットフォームで売ってもいいでしょう。
最近では同人誌と商業出版の架け橋となる技術の泉シリーズというような面白いものもあるようです。残念ながらわたしはここから本を出したことがないので、どういう経緯で出版に至るのかは知りません。それはそれとして、わたしはマニアックな本が好きなので最近はここで本を買うことがよくあります。こういうニッチな文書を書く人にも、そのような文書を書く人、両者ともに嬉しい取り組みがもっと増えてくると面白いかなと思います。
どのような方法で本を出すにしても、わたしは信用が1番だと思います。わたしの場合もたくさん本が売れたりしたのは継続的に有償、無償を問わずコンテンツを配信してきて好評を受けた結果得られたおかげだと思っています。釣りタイトルでアクセス数を稼ぐような真似はせず、正攻法で良質なものを出し続けて信用貯金を貯めるのがよいでしょう。
やや話はそれますが、本にするにしてはあまりにも分量が少ないというような場合は、雑誌やWebメディアの記事にしてもらうという方法もあります。それぞれ上記の書籍の持ち込みと同様、なにかしらのチャネルがあるかと思います。ただしここでは詳細については述べません。
最後になりますが、参考までに現在のわたしのやりかたについて書いておきます。
- 1~4ページくらいの小ネタは無償公開する
- 4~20,30ページくらいの中規模のネタは雑誌記事、あるいは同人誌にする
- 大ネタは書籍にする。上述の小ネタ、中型ネタをまとめたり、一部抜粋したりするのもよい
- どれも自ら積極的に宣伝する(とくに同人誌)。出したからといって目に止まってはじめて売れるわけではない
- 読者の審判を仰いで*3、次に活かす
本記事が、「これから本を出したい」と思っているかたに役立つことを願っています。