「通貨の日本史」を読んだ

通貨の観点から日本の歴史を振り返る本です。以前紹介した道路の日本史とコンセプトは似ています。

本書は日本の通貨を無文銀銭から現在流通しているもの、果てはSUICAビットコインまで紹介しています。それぞれの通貨についてどういう歴史的事情によってどんな意図に生まれたのか、それが世の中に受け入れられたのか(例えば2000円札は受け入れられなかった)が書いてあります。中には全然知らなかったものもあったので楽しめました。古代から貨幣の材料になる金や銀、およびそれらから成る貨幣そのものが貿易によって世界を移動してきた歴史などもよかったです。「お金ってなんだろう」と思っている人にはちょうどいい本だと思います。

「C++初心者からの脱出」を読んだ

starpos.booth.pm

よくありそうなタイトルのC++の入門書ですが、中身もよくありそう…ではないです。「文法やライブラリを一から説明して退屈なサンプルプログラムを作る」といったありきたりの入門書とは一線を画し、C++が持つ膨大な機能の中からいくつかを選んで「これはこう使うとよい」「この機能は存在はしているけど使わないほうがいい」という意見をきっちりとした理由付きで書いている本です。筆者の星野さんが企業のインフラを支える下記のようなC++ソフトウェアをC++で長年書いてきたエンジニアであることもあって、それぞれの意見は観念的なものではなく、実践的です。これらの意見が唯一絶対なものとは言いませんが*1C++初心者がモダンなC++プログラムを書く上で大いに参考になる本だと思います。

github.com

本書の対象読者は「C++使ったことあるけどどういう書き方がいいのかわからない」というような人です。その一方で、あくまで本書は「C++初心者」向けの本であって「プログラム初心者」向けの本ではないということが言えます。たとえば本書の本質から外れるところについては細かいところは他の本を見てくださいと参照を示すという割り切り方をしています。わたしはC++99までは使った経験があるもののC++11以降にどんな機能が増えたのか、それらをどう使えばいいのか知らなかったクチなので、まさに想定読者だったようで、本書を非常に楽しく読めました。

ついでに言うと、C++を読み書きする予定の無い人も、C++とはどんな言語なのかということを知るための、よい読み物になると思います。

*1:筆者もそんな言い方をしていません

「科挙 - 中国の試験地獄」を読んだ

「とにかく滅茶苦茶難しい」くらいしか知らなかった科挙がどういうものか知りたかったので買ってみました。本書を読んだ結果、期待通りというかなんというか、想像以上にすさまじいものだったことがわかって非常に満足しました。隋の時代にできた頃から難しい試験だったものの時代を追うごとに不正対策など様々な事情によって複雑怪奇で難解でなものになっていく様は圧巻でした。試験の難易度に関する話もさることながら、試験中に受験生たちが置かれる過酷な環境や制度が導入された理由、各所に挿入されているそれらにまつわるえげつない逸話なども楽しめました。逸話は見ているだけで滅入ってきそうなものや思わず笑ってしまうものなど多種多様なので最後まで飽きずに読ませてもらいました。

「塩の文明史」を読んだ

塩のよいところ、わるいところから始まって、それが古代文明から現在にわたる人類の歴史にどう影響してきたか、およびこれからどうすればいいかについて書いた本です。さいきん歴史の本をいくつか読んでいたので歴史とのかかわりのところが一番楽しく読めました。このあたりにもっと着目した本があれば読んでみたいものです。

技術書典5 お08(windhole)の頒布物

来たる10/8、技術書典5のwindhole(お08)ブースにて5冊の書籍を頒布します。どれも紙版と電子版がありますが、紙版は数に限りがありますのでお求めの場合はお早目にお越しください。

techbookfest.org

それぞれの本のサンプルを公開しておきますので興味のあるかたはご覧ください。

その他、弊サークルを含め、"お05"から"お09"の5つのブースはすべて低レイヤソフトウェアを扱っています。あわせてお越しください。

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「シュメル - 人類最古の文明」を読んだ

現在わかっている範囲で人類最古の文明であるシュメル文明について書いた本です。通常教科書で習う文明よりはるか前にあった文明とはどのようなものかと前々から興味はあったのですが、ようやく今になってこの手の本を読みました。内容はこの文明で使われていた楔型文字の読解が中心となっています。この文明単独の話はもとより、それが他の文明にどのようにつながっているのかなどがわかって非常に面白かったです。ときおり見せる筆者の歴史、およびシュメルに対する思いを見られるのもよかったです。

一社員から見たサイボウズに対する印象

はじめに

今朝twitterを眺めていると、現在私が勤めているサイボウズ綱島さんが書かれた以下のような記事を見つけました。

note.mu

気になる会社のことを調べる際に、よくある話。

「この会社のメンバーがどんな雰囲気なのか、もっと知りたいなぁー」 「でも、人事がいつも口にする "アットホームで風通しのよい社風" って、もう聞き飽きたよ…どうせ建前じゃないの?」

採用担当の僕は考えました。

「候補者の方々にサイボウズのことをもっと知っていただくにはどうしたら良いのだろう…?人事によるオフィシャルな情報発信もいいけれど、会社のいいところとか見せつけすぎてもぶっちゃけ引くしなぁー。もっとこう、サイボウズのメンバーが会社とか関係なく、素顔のホンネで話しているところをご覧いただいて、好きになってもらって、ジョインしてもらって…って感じのほうが好きだなぁ。なんかいい方法、ないかなぁー」

あ。メンバーのTwitter見てもらえばええやん。

「なるほど面白いなー」と思ってぼんやり眺めていたら、いきなり自分が出てきてびっくりしました。

技術顧問として参画くださっている sat さん。私、技術には詳しくなくて申し訳ないのですが、Linuxカーネル開発の第一人者ですごいお方だそう。サイボウズの開発文化についてのつぶやきもしてくださっています。

普段IT系ダジャレと大喜利しかしてないことは武士の情けかバラさないでくれたようです、ありがとうございます。

で、ダジャレとかはどうでもいいんですが、なんとなく会社のブログではなく個人として、公開情報と私の心のうちだけをもとにして一人の社員から見て会社がどのように見えているかを書いたら面白いかなと思ってやってみることにしました。なお、公式ページに書いているような情報はそちらを見ていただければいいのですっ飛ばします。

働き方

サイボウズは社長の濃いキャラクターもあって今の日本においては特異な働き方を選べる会社として認識されることが多いです。この手の「働く時間と場所は自由に決められますよ、複業もOKですよ」というしくみは制度を作っても運用が伴っていなければ全く意味がない*1のですが、サイボウズではごく当たり前の制度として扱われているという印象です。実際わたしも世間一般から見ると会社員としてはかなり変わった働き方をしています。

様々な事情によって私はフルタイムワークとオフィスに出勤という2つが非常に困難です。この制約のもとで働ける会社というのはそうそうないので、前職を辞めたときに漠然と「しばらくは会社員として働くことはないだろうな」と思っていました。しかし、あるとき最初の記事にも出てくるymmtさんから声がかかって上記の制約がある状態でも働ける契約で技術顧問になりました。ただし、ここまではあくまで社外エンジニアとしての話なので、さして珍しくないかもしれません。

その後いろいろあって社員になることになりました*2。その打診を受けたときも上記の制約があるので無理ではないかと言ったところ、「とりあえずこういう条件なら働けるということを言ってほしい」と言われました。そこで細かく「こういう制約のもとでこういう仕事をしたい」と要件を書いたところ、関係者のみなさまに色々調整していただいた結果、そのまま通りました。出せる情報だけ出しておくと「週20時間(フルタイムを8時間*5日=週40時間とすると、およそその半分)会社のために働いて残りは何やっててもいい。フルリモートワーク、かつ働く時刻は問わない」というものです。まさかそのまま条件が丸飲みされるとは思わなかったので驚きました。それと共に、この会社は「会社のために従業員がいる、ではなく一緒に働く人たちが集まる場として会社がある」という意識なのかなと感じました。

ここで誤解を避けるために少々補足をしておきます。まず、さすがにこの条件で働いている人が社内で多数派とはいいません。ざっと見た限り、週のうち何日か出勤、何日かはリモートワーク、というかたが多いようです。もう一点、働き方は担当する業務と表裏一体なので、基盤システムの運用をしているかたが私と同じ働き方をできるかというとそうではないでしょう。これと似た話ですが、本記事を見た結果サイボウズに応募してみようとと思ったかたは「リモートワークがしたいから応募した」ではうまくいかないと思います。あくまで「私はこういう仕事をしたいし、できる。それにあたってこういう働き方にしたい。この働き方なら可能なはずだ」とセットで話すとよいのではないかと思います。

副業

週20時間という会社に使う時間以外は何をしているかというと、主にIT関連の書籍や記事の執筆をしています。とくにOSカーネルなどの低レイヤ技術の面白さを世に伝えるようなものを書いています。これらは考えようによっては業務とバッティングするところがあるため、保守的な会社では「もしかすると何か問題があるかもしれないから念のためやめといて」となりがちです。しかし私の場合はとくに会社から注文は出ておらず、今のところ好きに情報発信でいています*3

どんな仕事をしているか

大きく2つあります。一つは主にカーネルに関するコンサルティングのようなことをしています。下記のような取り組みのサポートをしたりしています。

blog.cybozu.io

blog.cybozu.io

もう1つは、サイボウズが提供しているインフラ基盤を刷新するNecoプロジェクトのメンバとして働いています。

blog.cybozu.io

Necoにおいてもカーネルやそれに近いレイヤで何かあれば出張ってきて解決するということをしています。

blog.cybozu.io

それに加えて、とある技術についての調査をしていますが、これについてはまだ公開情報ではありませんのでぼかしておきます。ただし、Necoプロジェクトは「機密でないものは積極的に情報公開する」というスタンスなので、近いうちになにがしかの情報を公開すると思います。

現在は上記のような制約もあってかゴリゴリ開発するようなことはしていません。今後どうするかは現在検討中ですが、単に「これやって」と言われるのではなく「今の制約の範囲でどういうことができそうか」ということを話し合っている最中です。

その他に思うところ

とにかく意思決定が速く、複数の幹部の承認が無いと何もできないというようなことは無いです。その一方で、社内の議論を見ていると時折「あれっ、このやりかたにすると何をするにもオーバーヘッドが大きくなるぞ。いわゆる大企業病にかかりかけてないか」と思うこともあります。しかし、今のところはその危ない芽は早期に摘まれているように見えます。もう一点、「このしくみはよくないな」と思ったことがあっても社員が声をあげてしくみが改善されたり無くなったりする様もたくさん見てきました。ルールが減ったりなくなったりするのは大変なことなので、これは素直にすごいと思いました。

現在サイボウズには数百人の従業員がいます。売上も利益も拡大傾向にありますので、今後もどんどん人が増えてそのうち1000人を超えることでしょう。この中で意思決定の速さやしくみの改善、柔軟な人事制度がどのように変化するのかを楽しみに見ています(偉そう)。他人事じゃなくてもちろん自分も声を上げますよ。

わりといいことばかり書いてしまったので悪いところも何か書いておきましょうか。出張申請のシステムが使いにくいです。とりあえずそれくらいです。

おわりに

これまでに述べたことは会社の中の一部しか知らない、かつ技術顧問時代から数えても高々1年少々しか在籍していない私の感想にすぎないため、会社全体に当てはまるかどうかはわかりません。しかしこのような情報発信には何らかの意味があるのではないかと思って本記事を書きました。サイボウズがどういう会社なのか気になるかたがたに向けて、本記事が一つの役立つインプットになれば幸いです。

最後になりますが、NecoやSREでは一緒に働いてくれる仲間を募集しています。ぜひおいでください(ババーン)。大変ですけど楽しいですよ。

キャリア採用 サイトリライアビリティエンジニア(SRE) | サイボウズ 採用情報(新卒・キャリア)

*1:たとえば決して副業の申請が通らないとか

*2:余談ですが技術顧問の肩書はお客様っぽくてしっくりこないので最近外してもらいました

*3:具体的に何をしているかは本記事で言いたいことから外れるので気になるかたは私の名前でぐぐってください